


オークションハウス「PHILLIPS(フィリップス)」から昨年のカタログがまとめて送られてきました。こうして改めてリストを見てみますと、ビンテージ時計も徐々に以前のように盛り返してきていますね。これは嬉しい。
従来このような大手オークションハウスに出品される腕時計というのは、現代では目にすることのないどこか骨董的な表情で所謂「タイムピース」であることがリストされる条件であったと思います。2010年代、ビンテージロレックスで言えば希少なディテールを持つスポーツモデルが幅を利かせていました。その数少ない個体(しかも良コンディションで)こそが歴史的価値が高いものとされ、コレクターを熱狂させ、その落札結果が後に市場の値段を決定付けていました。要は「激レアしか勝たん」という状況だったことを振り返ると思い出します。
その後「ポール・ニューマンのPaul Newman」が20億円で落札(当時競売に於ける腕時計の落札価格としてはたしかワールドレコードでした)。思い返せばここが2010年代に於けるビンテージウォッチムーヴメントのピークでした。そのあたりから市場ではROLEXとPATEK PHILIPPEを筆頭にスポーティな現行物が最もセンスの良い時計とされ、そして購買意欲を掻き立てられるようなどこかファッション的なプロモーションの下、インライン以外でも例えば限定カラーであったり装飾を施したダイヤモンドバージョンであったり、沢山の少量生産モデルが多く発表されました。そしてそれらは驚くことに、今日定価で購入した新品であっても市場価格は数倍であるということも珍しくありません。
そしてこれまで「何かを貫いていた」感のあったオークションハウスでさえもそのような新商品をビンテージと同列に扱うように。さらには「新型を敢えてオークションでローンチさせる」といった、ファッション的に言えばどこかポップアップ的な要素を取り入れ出したりと、最早そこに私が憧れてきた神聖味や芸術性はありませんでした。私はこの時代の全てを一括りに「反社」と呼ぶことにしました。
しかし今。ようやく、ようやくこれまでのような「お祭り時代(ラグジュアリーの暴挙)」もひと区切りしたのか、ここにきて昔ながらの「本物思考」が返り咲いてきているような気がします。例えば「F.P.Journe(フランソワ・ポール・ジュルヌ)」を初めとする「独立時計師」に人気が集中しているのもこの数年の出来事が少なからず反動になっているはず。これ見よがしな派手さは決して無いものの、本来の「プレミアム」が確実に戻ってきている、そう思うのです。
このオークションのカタログを見ていると、まだもう少し先の話にはなるのかもしれませんが、「美しいって本来こうでしたよね」というタイムレスウォッチの原点みたいなものを今後さらに感じさせるブランディングになっていくのではないかなと期待させられてしまいますね。往年のビンテージ物も以前に比べリストされる個体数がだいぶ増えていますので。
ビンテージ、現行品、多くの選択枠があるけれど「じゃあ結局のところ邪念抜きにして最も美しい時計って何ですか」という腕時計史の総決算的な流れになっていくのではないでしょうか。
2023年2月11日