INSPIRATION Vol.14

Inspiration is an annual gathering in So-Cal for art, fashion, action-sports culture and vintage enthusiasts from around the globe.

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COVID19の影響により3年振りの開催となったビンテージファッションの祭典「INSPIRATION(インスピレーション)」。第14回目となる今回の会場はパサディナのコンベンションセンター。私は10年くらい見に行っているのですが今回はこれまでとは状況が一味違うのではないかと思っています。

その理由としてはやはり「世界的なビンテージブーム」が挙げられます。大きなニュースとしても大昔のデニムパンツが数千万円で競り落とされたなど大々的に報道されるほど加熱している時代なわけですが、興味深いのはそれがあらゆる分野で同時多発的に起こっていることでしょう。なにも洋服に限らず時計、カメラ、車は勿論、楽器やレコードでも所謂「モノ」と呼べる物が全体的に高騰し、そしてその中でも一際歴史的存在価値が与えられる所謂トップピースに関しては極端に言えば天井無き値段がつくことも珍しくありません。ですのでこのショーは市場のタイミングとしても、そして充電期間を経てという復活感がある感じも言うことはありませんよね。

インスピレーションは基本的にはファンイベントではあるのですが、実際のところ買い付けや商談に来るプロのバイヤーが目立ちます。しかし物本来の価値に付随して近年は「資産的価値」を併せ持つということが高レベルのビンテージを買う上での新たなスタンダードになったと聞きます。ですのでそうなってしまうと基本的には安く買える、逆を言えば安売りするベンダーなんていないわけです。その環境で果たしてバイヤーは仕事になるのかは分かりませんが、やはりこういったイベントはその名の通りイベントらしく、参加してビンテージの魅力を存分に同胞と楽しむ、これに尽きるのでしょう。

おそらく今年がイレギュラーなだけで、本来インスピレーションの開催時期は毎年2月の第二週。金曜日から始まり、土曜日までの二日間。翌日はローズボウルのフリーマーケットがあり、バイヤーは当然それにも参加します。そして翌週からはラスベガスでマジックという世界最大規模の展示会があり、まるで映画のような砂漠景色を何時間もドライブしてベガス入りします。ですので毎年この2月という時期はアメリカ担当のバイヤーにとっては非常に重要な時期ではあるのですが、正直これほどエンターテインメント性のある現場は世界のどこを見渡してもありません。一週間に渡るこのスペシャルメドレーが忘れられなくてまた一年間仕事を頑張るバイヤーも少なくないはずです。


ということで朝早くから(早い時間ほど入場料は割高に)来ています、久しぶりのインスピレーション。かつてはビンテージのセクションとは別に新品を製作している現代のアーティストやメイカーとしてブースを設けている出展者も沢山いましたが今回はあまり見当たりませんね。目新しさで言えばやや欠ける印象でした。

それでもやはり本場とだけあって、気合いを入れた彼らのスタイリングは流石と言いますか、このタイムスリップ感を味わえるのもこのイベントの醍醐味でしょう。

ご覧のようなブースが会場いっぱいに広がっているわけですが、正直に言うと、良くも悪くも10年前と変わらないですよね。これだけエンターテインメントの時代が変わり続けていて、最近ですとフリーズアートショーのような展示会の良いお手本がすぐ近くにあるのに、そういった「新時代感」がブランディングから伝わってこないのが、昨今のビンテージのポテンシャルを考えるととても惜しいなと感じてしまいます。

あとはビンテージアイテムを「最もラグジュアリーな物」として身につけるギラギラ系の層も全く来ている気配がありません。模様をレポートする動画配信勢も同様に。ちゃんと今時の人々にリーチできているのでしょうか。外野からはいくらでも言えてしまうのであれですが、何度も言いますけど本当に勿体無い、というのが私の感想ではあります。

実際に着る着ないは置いておいて、やはり何十年もエイジングが進んだ物はインパクトが違いますね。近年は2000年前後の一部の洋服もビンテージとして魅力が開花されてきましたが、このような昔ながらのクラシック系の方が私は好きですし結局は使いやすいですね。その分かりやすさこそがある種アイコンとして時にアクセサリーのように機能しますので。

そういえばゴールドスミスのアラムも来ていて、友達のブースの一部でゴールドのコレクションを展示していました。彼は昔からビンテージにジュエリーのスタイルです。全く畑が異なるアーティストではありますが敢えてこのインスピレーションでお披露目するというのは彼らしくて格好良かったです。

以上、レポートでした。

最後に。現在、ビンテージのリーバイスを筆頭に「資産価値のある物」として市場の高騰が続いているわけですが、これが果たして「次世代の芸術品」となってゆくのでしょうか。正直、見方を変えればSNS成熟期とパンデミックが重なり生まれた「一番今時っぽい現象」であるとも思えてしまいます。例えば近年特に柔軟なオークションハウスが参入するなど、要はオーセンティックな箔付けがあってくれると、現在のこの価格帯にも真実味を帯びるのですが。私自身も大ファンな世界なので派手な一過性で終わってほしくはありません。